● ステディカムの生い立ち
1970年代のハリウッドで撮影監督として働いていたGarrett Brown(ギャレット・ブラウン)が、カメラを担いで歩く際のブレを吸収した滑らかな映像表現ができないか、と研究を始めたのがすべての始まりでした。何度も試行錯誤の挙げ句に彼は、自身の名を冠したBrown Stabilizer(ブラウン・スタビライザー)という現在のステディカムの祖先とも言うべきモデルを送り出します。この黎明期のスタビライザーはアームが鉄パイプの溶接留めで出来ており、大きなブラウン管モニターを搭載し、太い配線は外部剥き出し、映画カメラを載せた際のリグの総重量は小柄な女性一人分の体重を超えていたと言われています。
この後ブラウン・スタビライザーは映画機材大手のシネマ・プロダクツ社にその技術が売却され、ステディカム(英語で安定を意味するSteadyとカメラ Cameraを組み合わせた造語)と命名されました。
考案者であるギャレットはその後機材生産の一線から少し距離を置きながらも、映画『ロッキー(”Rocky” 1976)』のトレーニングシーン、『シャイニング(”Shining” 1980)』での長回し、『スターウォーズ(”Star Wars : Return of the Jedi” 1983)』のスピーダーバイクの追跡シーン、など映画史上に残るシーンを自らステディカムを使って撮影しました。


1978年:映画「Rocky II」撮影中のギャレット・ブラウンと、主演のシルベスター・スタローン。copyright © Garrett Brown

● ステディカムの現在
シネマ・プロダクツ社のステディカム部門とその各種権利は2000年に米国映画フィルター製造大手Tiffen(ティッフェン)社に買収され、同時にステディカムはティッフェン社によって商標登録されました。この頃からステディカムはTVドラマの撮影でも多く使われるようになり、『ER緊急救命室(”ER” 1994-2009)』シリーズなどで全編にわたってステディカムならではの浮遊感のある映像表現が注目を集めました。
ティッフェン社はステディカムのラインナップ拡充に熱心で、考案者ギャレットとも頻繁に連絡を取りつつ、ステディカムの小型ハンディータイプのMerlin(マーリン:2005年発売:現行機種)や劇的なブーム高低差を撮影できるタンゴ(2010年発表)などを開発しています。
また2011年には中型で高性能なデジタルビデオカメラが各社から発売されている現状を背景に、新世代中型機種となるZephyr(ゼファー)を発売し、すでに日本でも人気機種となっています。


2010年:アメリカNABショーで、ジェリー・ホルウェイによるオペレーションでお披露目されたSteadicam Tango。
copyright © Ginichi Corporation

● ステディカムの基本構造
ステディカムはカメラを載せるSled(スレッド)、スレッドを支持するArm(アーム)、アームを接続するためにカメラマンが着用するVest(ベスト)の3つから構成されます。
これら3のパーツは載せるカメラの重量によって強度や機能が分かれており、現在ステディカムでは映画用35mmカメラや3Dカメラを載せるUltra 2(ウルトラ2)を筆頭に、超小型の携帯電話用Smoothee(スムージー)まで、10種類ほどのリグがラインナップされています。
これらいずれのモデルも大きさは違えど、カメラを載せるスレッド部分にあるGimbal(ジンバル)と呼ぶ水平架の存在が欠かせず、このジンバルの働きによってカメラはまるでヤジロベエのように常に一定の光軸で安定しようとし、カメラマン側の動きによる画のブレを最小限に抑えることが出来ます。
このほか、スレッドの高さ調節やアーム張力の調節など、ステディカムには構造上の特色が数多くあり、あらゆる場面で運用しやすいようにと熟慮を重ねて設計されたディテールが他社製品と一線を画しています。

Steadicam および ステディカム は米国ティフェン社の登録商標です。
Steadicam and ステディカム are registered trademarks of The Tiffen Company LLC.

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